Franzの音楽にまみれた生活

Franzに音楽をください

2019年明けましたね(遅い)

生きてます。酷く忙しかったという訳ではなく、単純に気力が停滞しておりました。前の更新からありえんくらい期間が空いてしまいましたね……。

どんな事書いてたかなと思って久しぶりにブログを開いてみると、閲覧総数が3,000を超えていてびっくりしまして。見てくれる方が少しでもいらっしゃるなら、また少しずつでも更新していこうと思い、ただ今文章を書いているところです。

という訳で最近の個人的にハマっている事を一つ。それは「あまりクラシックのイメージがない国の作曲家の発掘」です。例えば中国とか韓国とかトルコとかイランとか。

クラシック音楽」と言えばイタリアやドイツ・オーストリア、フランス、イギリス、ロシアなどの作曲家が有名ですが、他の国にも(歴史は浅いけれど)結構な数の作曲家がいるんですよね。その方々の作品を是非聴いてみようじゃないかと、最近熱心に掘り下げています。特に中国の作曲家は面白い方が多くて良いですね。次の更新で紹介しようかと思っていますので、お楽しみに!

さて、ただの近況報告になってしまいましたが、今日はこの辺で。また近いうちに更新……出来たら良いなあ。

バレンボイムのモーツァルトを聴く

はいどうもお久しぶりです、Franzです。何ヶ月振りかと以前のpostを確認しましたが約6ヶ月以上経っていましたねこれは酷い。結局、ポリーニの箱についてもレオンハルトのバッハについてもpostしませんでしたが、言いたい事多すぎて長くなりそう(特にポリーニ)なので、楽しんでます、とだけ言わせて下さい(最低)


ところで、ダニエル・バレンボイムが好き、という方は何人くらいいるのでしょうか。昔読んだとあるサイトでは、元妻であるチェリスト ジャクリーヌ・デュ・プレを裏切った男と紹介されていて、更には音楽も否定的な扱いがなされていました。また、他の所では「バレンボイムなんて好きな奴はいないだろう」と強い論調で断言されていた事もありましたし、彼の指揮についても、「フルトヴェングラーの真似事に過ぎない」というCDレビューを多く読みます。酷く嫌われてるなぁ……ちなみに僕自身はバレンボイムの演奏が大好きです。残念だね、ここにファンはいたのさ!!彼の振るブルックナーとか、大好きですよ。まあそんな訳で、今日はバレンボイムモーツァルト。若かれし頃に録音したピアノソナタ&変奏曲全集。


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バレンボイムはロマン派気質な方だと思うんですよね。彼の平均律や最近のライヴでのベートーヴェンを聴くと感じるけど、ペダルをしっかり使いながら目一杯に旋律線を歌い上げる。そんな所が堪らなく素敵。このモーツァルトはそれらの録音よりもずっと昔のものだけれど、やっぱりこの頃からロマン派気質だったんだなあと感じます。ソナタ1ハ長調の冒頭付近の…7小節目かな、そこの旋律をペダルを使って蕩けるように弾いているのが、なんとも印象的で、美しい。他の所(強弱の付け方が絶妙な第2楽章底抜けに明るいお茶目な第3楽章!)も素晴らしいのだけど、ここが余りにも美しいから何度もその部分を聴いちゃう。また、有名なイ短調の第8ソナタ。雷鳴のような冒頭が過ぎた後、かなり弱い音に落として私たちに語りかける。ここは何度聴いてもぞくっとします。無邪気に音が舞う中、少しの哀しさを纏いながら、一陣の風が駆け巡る劇的な物語を聴くような、その場を一瞬にして劇場に変えてしまうような、そんな演奏。それでいてモーツァルトらしい明るさ、ユーモアは十分。「モダンピアノでモーツァルトを弾く事」を、我々に分かりやすく提示してくれます。作曲当時の演奏法に近付けるのも素晴らしい取り組みだけど、自由な発想で演奏するのも演奏の醍醐味だと思います。


実はこれ、昔買ったは良いものの、当時大学一年生でグールドとピリスのモーツァルト一筋だった僕にとっては面白くない演奏に感じられて売り払ってしまい、最近買い直したもの。元々バレンボイムは大好きだけれど、改めて聴くと、彼のモーツァルトはこんなに良かったんだと実感しています。是非皆さんも「バレンボイムなんて」とか言わずに聴いてみて下さい。お勧めです。


個人的な近況

Franzです。最近の個人的な事と、音楽の事を。


まず個人的な事。21日に母方の祖母が亡くなりまして、その葬儀と告別式に行って参りました。子供の頃から面倒を見てくれた祖母の突然の訃報だったので、今でも現実を受け入れられません。近しい者の死というのは、やはりつらいものですね。そんな中、明日明後日と仕事。元気なんか全くありませんが、頑張ります。


さて、音楽の方ですが…色々あって今、ポリーニレオンハルトに惹かれています。何故突然ポリーニレオンハルト?とお思いの方も多いでしょう。なんでだろうね?(すっとぼけ) ポリーニは、ちょっとしたものを買ったので、今度惹かれた理由も併せてブログに載せようかと思います。そしてレオンハルトは、youtubeで色々漁ってみると中々良いなと思うようになったという、それだけの事であります。これもいつかポストしたい。(以前「バッハ録音集成」という日本独自企画の20枚組からなる数量限定BOXを持っていたのですが、当時つまらないと感じてしまって売った過去が…今思うと滅茶苦茶勿体無い事をしました。) そんな訳で、一枚ずつぼちぼち購入していこうかと考えている所です。


なんも面白みはありませんが、まあとりあえずの近況って事でいいよね?(投げやり) そんな訳で、いずれ投稿されるであろうポリーニレオンハルトのポストにご期待下さい!(いつになる事やら…)

ロジェ・ムラロへ捧げる讃歌

昨日今日と体調が悪く、お休みを頂いているFranzです。頭が痛くて身体が重く、身体を動かすだけでもかなりの労力がいるので、かなり面倒。困ったもんだ。


そんな訳で、横になりながら何か音楽を聴こうと思ってたんですが、中々決まらない。小一時間悩んだ結果、フランスのピアニスト ロジェ・ムラロ(Roger Muraro)のメシアンのピアノ作品全集が目に留まったので片っ端から聴く事に。この全てのCDに写っている眼鏡のおじさんがロジェ・ムラロです。一枚だけ違う眼鏡のおじさんが写っているCDがありますが、そちらは作曲者であるメシアン


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フランスの巨匠 オリヴィエ・メシアンが遺したピアノ曲を、全部録音した人は少ない。その数少ない一人、ムラロのこの録音は極めて素晴らしい。一つ一つの曲単位で見ても、そのどれもが高水準の出来だ。


まず最初に、僕の大好きな『鳥のカタログ』(写真真ん中の鳥が写っているCD)から聴き始める。全13曲、約2時間半を要する大作だ。ムラロは大変クリアな音で曲を進めていく。ムラロのメシアンの演奏の特徴は、情緒的になり過ぎる事なく、極めて優れたテンポ感とリズム感で音楽をぐいぐいと進めていく所だろうか。理知的なんです。曲の構造がはっきり見えるような明晰さがありつつ、沸き立つ高揚感もある。この『鳥のカタログ』にはアナトール・ウゴルスキによる名盤があるが、それに比肩する演奏だ。ウゴルスキとの違いを感じながら聴くのも中々面白い。ちなみにウゴルスキの演奏は、ムラロの演奏よりもタッチの多彩さやデュナーミクのコントラストが半端ない、ドラマチックな演奏。どちらを取るかは人によりけりだろう。


続いて、『鳥の小スケッチ』や『四つのリズムのエチュード』と小品が入ったディスク(写真左)、若かれしメシアンが書いた『前奏曲集』と、一曲で30分の演奏時間を要する傑作『ニワムシクイ』が入ったディスク(写真右)、そして高名な『嬰児イエスに注ぐ二十のまなざし』(写真一番上)という順番で聴く。特に『嬰児イエス…』は名盤が多い名曲だが、これも実に良い。タッチの乱れやミス等もあって、ここ撮り直せばよかったのに、と思ってしまう面も少しあるのだが、そういった瑕疵を忘れさせてくれる素晴らしい演奏である事には変わりない。個人的には、有名なベロフ盤や個人的に大好きなオズボーン盤と同じくらい好きである。…というか、メシアンの音楽はその殆どが技術的にも音楽的にも凄まじい難曲揃いであるのに、全て高水準の演奏で、ムラロの演奏の素晴らしさに驚愕しまくりです。そして、『鳥のカタログ』や『四つのリズムのエチュード』、『ニワムシクイ』は、誰かの咳が聞こえたり最後に拍手が入ったりしているから、どうやらライヴ音源のよう。ライヴでこの完成度はたまげるわ…。録音が少し色気に欠けるというか、なんだかぱっとしない音ではあるけど、それを差し引いても良い演奏かと思います。


実はこのロジェ・ムラロ、僕が中学生の頃から知っている演奏家でした。しかもメシアンの演奏で。これはいつか改めて書くつもりですが、当時ショパンやリストばかりしか聴いていなかった僕が、たまたまニコニコ動画にアップされていたムラロが弾く『嬰児イエス…』の6曲目「御言葉によって全ては成されたり」を聴いて感銘を受けたのが最初でした。大学一年の時に中古でこの全集を揃えて、ちょびちょび聴き始めて、今となってはメシアンの音楽が大好きに。中学生の時に聴いてなかったらまだ興味すらなかったのかもと思うと…人生って何が起こるか分からないもんだ。


ここまで話しておいて、ムラロの録音はこれしか持ってないのが現実。ショパンとかリスト、ラヴェルも弾いてるようだし、揃えてみようか…せっかくこのムラロの素晴らしい演奏のお陰で、メシアンのファンになれたんだからね。ロジェ・ムラロ、万歳!


さて、まだ体調が優れないけれど、明日は大丈夫かな…もう一度メシアンの音楽に浸りながらゆっくりしましょうか。それでは今日はこの辺で!

穏やかで優しいモーツァルト

寒い。寒いです。今日はいきなり吹雪になったりして、本当につらかった。何故僕が外に出る時はいつも天気が荒れるのか…。


さて、今日紹介するのはそんな荒れ模様の天気とは真逆の美しいモーツァルト。演奏はアルド・チッコリーニ(Aldo Ciccolini)。

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チッコリーニといえば、EMIに膨大な録音を残している事で有名ですね。リストやアルベニス、サティ、ドビュッシー、セヴラック…その他いろいろ。他レーベルにベートーヴェンの全集なんてものもあったり。2015年の2月に89歳で亡くなるまで現役だった、凄まじいエネルギーを持つピアニストでした。…89歳ですよ?どんだけ力強いんだ。


この録音は、彼が晩年に近い時に録った演奏。なので、指回りという面で言えば流石に昔と比べたら衰えている…のだけど、この演奏は、そういう技術的な衰えを感じさせない美しさがある。

例えば、有名なトルコ行進曲付きの第11番。第1楽章の愛らしい変奏曲は、ただただ優しく素朴に、緩やかに進行していく。もちろん変奏によってタッチは変わるし、デュナーミクも変化を付けている。でも、「やってやるぞ」という風情は全くなくて、ひたすらに自然。それは第2楽章のメヌエットでもそうだけど、短調の箇所では絶妙に陰影を付けていて、一瞬どきっとする。でも、基本は楽しそうにくるくる踊っている少女みたいで素敵。トルコ行進曲も、今流行りの古楽的な刺激的な演奏ではなく、さらりとしたものだけど、充実した音で流れていく。とにかく自然。続くソナタ第2番の出だしだって、こんなに優しくそろっと入る演奏は今までに聴いた事がないし(大体がフォルテでじゃんじゃんやっている)、あのオペラアリアみたいなソナタ第13番も、どこまでも優しく音が紡がれる。聴いていて、「モーツァルトって素敵だなぁ」としみじみと思える演奏です。


2枚目を全く紹介出来ていないけど、こちらも素晴らしい。何が素晴らしいって、クレメンティソナタが入ってるんです、op.34-2 ト短調のやつが!(興奮気味) かの有名な大ピアニスト ウラディミール・ホロヴィッツが愛奏していた、運命の動機がこだまする劇的な楽曲。力感のあるタッチで弾いていて、大変ドラマティックな演奏になっている。他にもモーツァルトハ短調幻想曲とソナタ第14番、ソナタ12番も入っていて、「わしはまだまだ衰えてないぞ」と言わんばかりのチッコリーニが聴ける。


でもどちらのディスクにも言えるのは、題名の通り、どこか穏やかで優しい雰囲気を湛えているということ。昨今のモーツァルト演奏は、どこかエッジの効いた、爽快で刺激的なものが多くなっている。僕はそういう演奏も大好きなので良いのだが、このチッコリーニの演奏は、昨今では中々ない演奏で貴重なのではないだろうか。指回りは衰えたとは言ったけど、タッチや音色を操る技術は昔よりも高くなっているのではないかと思う。

しみじみとした、美しい演奏です。お勧め。

ヘタウマなショパン

今日は大学生の頃からずっとお世話になっている美容室に行ってぼさぼさの髪を整えてきました。他のお客さんもかなり多いお店で、待ち時間が出来る事があります。そんな時は、待ち椅子の横の棚にあるたくさんの漫画を読んで時間を潰す事になります。そのたくさんの漫画の中には、僕の大好きな『ピアノの森』もありまして、僕はいつも、飽きずにこればかりを読んでしまう。
クラシック好きなら知ってる人も多いだろうし、そうでなくても書店で見掛けた事くらいあるかもしれない。主人公の一ノ瀬 海が、たくさんの人々と出会いながら成長し、ピアニストとしても才能を開花させていく、という感じで合ってると思います。間違ってはいない(断言) そして、話の後半では、主人公の海がショパン国際ピアノコンクールに出場する事になるのだが、そこを読んでいると無性にショパンが聴きたくなってくるんです。なんの心理なのか。きっと描写が上手いからだと思う(皆さんも是非読んで!)

そんなわけで、今日のお題はトルコの女流ピアニスト イディル・ビレット(Idil Biret)の演奏によるショパン ピアノ作品全集。

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イディル・ビレットは、以前紹介したイェネ・ヤンドーと同じNAXOSレーベルに、ヤンドーと同じく初期の頃から録音を残しているピアニスト。ベートーヴェンピアノソナタ全集、リストやシューマンブラームスの諸作品を残し、更にはブーレーズが遺した3曲のピアノソナタ全てやリゲティの練習曲、珍しいところでいうならアルカンの『鉄道』やマスネのピアノ協奏曲、師匠であるヴィルヘルム・ケンプピアノソナタ(!)なんかも録音していて…凄まじいものがある。なんだけど、前々から聴いていたヤンドーと違って、僕が聴き始めたのは1ヶ月前とかそんなもん。本当に全く聴いてこなかった。その理由は、ビレットの演奏に対しての良い評価をほとんど見た事がなかったから。自信持って購入に踏み込めなかったんですな。ヘタレである。


超絶技巧の持ち主のピアニストや、あるいは技巧が安定しているピアニストと言ったら誰になるだろう。例えばマルカンドレ・アムランやオッリ・ムストネン、スティーヴン・オズボーン、ポール・ルイス等になるんでしょうか(まだたくさんいるけどね)。その辺りと較べると一目瞭然で、テクニックが洗練されている訳ではなくむしろごつごつしている感じで、洗練や流麗という言葉とは、正直言って、かけ離れている。「お…おお…だ、大丈夫か…?おお…あ、ちょっと……おお…」という感じになるような危なげな(?)演奏もあるにはある。


しかし、虚心坦懐に聴いてみると、中々良いピアニストだと思った。例えば練習曲集。op.10の有名な冒頭のハ長調や2番イ短調は、かなり弾きにくそう。だけど、左手を強調してみたり、最後の音の左手をオクターヴ下げてみたりして、彼女なりの表現を行っている。次の3番ホ長調…あまりにも有名な「別れの曲」では、溺れ過ぎない味わい深い演奏をしている。ここで、カンタービレ的なテクニックは高い事が分かります。良い演奏だ。4番嬰ハ短調は…やはり弾きにくそうだが、声部を浮き立たせてみたり、音を短く処理してみたりして、なんだこれは面白いぞ、と思わせられてしまった。そう、先ほど言った「ごつごつした感じ」が、逆に面白いアゴーギク、グルーヴ感を作り出しているのかな、と思った。決してテクニックが上手い人ではない。だけど、悪くない。大好きなピアノソナタ第1〜3番も難しい作品ながらもかなり健闘しているし、なによりも輝かしいタッチが素晴らしい!バラードやスケルツォも、その独特なごつごつ感が相まって、逆に新鮮に聞こえる。ノクターンだって、とてもよく歌っている。装飾音の扱い方が現代の解釈と違うのはご愛嬌だけれど。良いね、良いよ。気に入ったよビレット氏。


確かに、確実なテクニックを持って弾いたショパンではないかもしれない。はっきり言ってしまって技術的に未熟なのかもしれない。しかし、独特な魅力があるのも事実かな、と思って今回取り上げてみました。

実は、ショパンの全集録音って、意外と少ない。僕が知らないだけかもしれないが、思い付くものでコルトー、フランソワ、ルービンシュタイン、マガロフ、シェバノワ、アシュケナージ、オールソン、そしてこのビレットのものくらいしか思い付かない。この人たちの中にビレットの名前があるのは、なんだか面白いなあって思う(馬鹿にしている訳じゃないよ!)。もっとビレットの録音、集めてみようかな、と思った土曜でした。

ベートーヴェンのピアノソナタを聴こう 〜ヤンドー編〜

お久しぶりです、Franzです。今日は風邪の悪化の為、仕事はお休みを頂いて家でゆっくりしています。嗚呼、我が身の脆弱さよ。


そんな脆弱野郎が今日聴いてる音楽はこれだ!(謎テンション)  NAXOSレーベルが誇るピアニスト イェネ・ヤンドーによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集↓


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イェネ(イェネー)・ヤンドー(Jenő Jandó)氏はハンガリー出身のピアニスト。ハンガリーの名前表記は日本のそれと同じだから、姓名となるので本来ならヤンドー・イェネーとなるのだが、名姓の呼び方の方が有名なのでここではイェネ・ヤンドーで統一する。

彼はNAXOS(ナクソス)レーベルが設立した初期からこのNAXOSに録音を残している、言わばお抱えピアニストだ。NAXOSと言えば、最近増えている「激安レーベル」の最古参であり、また、無名の作曲家の発掘などにも尽力しているレーベルであり、僕もいつもお世話になっている。彼はベートーヴェンの他にも、ハイドンモーツァルトのピアノ・ソナタ全集やバッハの平均律クラヴィーア曲集、リストの主要作品をいくつか、更にはバルトークのピアノ作品を網羅するなどしていて、CDの数を挙げるとキリがない。僕自身ファンでありながら、その全てを未だ集めきれていないのが現状。早く全てを集めたいところ。


しかし、こういう演奏家によくある批判の一つとして、「全集を作るのは良いが、下手、雑である」というものがある。ヤンドー氏の演奏もまた、そのような批判をされやすい。事実、もっと細部を磨けたのでは?と思う演奏もあるのは、僕も思うところ。まあ、どんな演奏家にもそれは言える事なので、別にヤンドー氏に限った事ではないのだが。


いやしかし、これが素晴らしい演奏なんですね。真っ直ぐで、余計なものが全く付け足されていない、誠実なベートーヴェン。「革命家」「耳の病で悩める音楽家」といったものは、ここでは見られない。「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」という作曲家が創り出した音楽を、ただ純粋に弾いているイメージ。

ヤンドー氏の演奏の特徴として「譜面の通りに弾く」というものがある。例えば、「ここはあえてフォルテではなくピアニッシモで…」「この曲のこの一瞬の弱音に万感の思いを込める…」「打鍵やタッチに込められた無限のニュアンス、グラデーションをどこまでも追求する…」という姿勢はさほど見られない。「深い精神性」という言葉が常に付いて歩く後期のピアノ・ソナタの演奏は、少しあっさりしている感は確かにある。一つ一つの曲を見れば、ヤンドー氏よりも細部に磨きをかけて凝った演奏があるのも事実。しかし、しかし…聴いていて、「良いなあ、この曲」としみじみ思う演奏なのだ、僕にとって。例えば有名な『悲愴』は、ロマンティック過ぎない語り口のおかげで嫌味にならないし、『熱情』最終楽章の一番最後、Prestoになる所では、一気呵成に驀進する。あまり有名でない初期の作品や中期の地味なナンバーも、見事に軽やかに、過不足なく演奏している。余計な事をしていない事の美…ふとした時に、「あ、今日はベートーヴェンを聴きたいな」と思った時に、すっと手が伸びるのが、このヤンドー氏の録音なのである。勿論、これからベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いてみたくて…という向きにも十分お勧め出来る。今ではあまり見当たらない全集だが、バラでならオンラインショップ等で取り扱っているので、是非購入をお勧めしたいです。


最後に…僕はヤンドー氏の大ファンである。その為、「褒めすぎだ」とか「公平に評価していない」とか言われそうだが、先ほども軽く述べたように微妙に感じる録音もあるので、盲信的なファンでない事だけは記しておく(例えばバラキレフの『イスラメイ』 あれに関してはベレゾフスキーやムストネン、ラン・ラン、プレトニョフ、F. ケンプ、福間洸太朗氏の録音をお勧めしたい。) 


「ヤンドー編」とあるくらいなので、今後もベートーヴェンのピアノ・ソナタ演奏に関しては、色々な演奏家を紹介していく予定です。風邪で身体は倦怠感MAXだが、こういう疲れている時に聴くベートーヴェンも良いものだなぁと、考えを改めた日であった。そして、ますますイェネ・ヤンドーの演奏が好きになった日でもあった。これからも付いていきます師匠!(雑に締め)