Franzの音楽にまみれた生活

Franzに音楽をください

穏やかで優しいモーツァルト

寒い。寒いです。今日はいきなり吹雪になったりして、本当につらかった。何故僕が外に出る時はいつも天気が荒れるのか…。


さて、今日紹介するのはそんな荒れ模様の天気とは真逆の美しいモーツァルト。演奏はアルド・チッコリーニ(Aldo Ciccolini)。

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チッコリーニといえば、EMIに膨大な録音を残している事で有名ですね。リストやアルベニス、サティ、ドビュッシー、セヴラック…その他いろいろ。他レーベルにベートーヴェンの全集なんてものもあったり。2015年の2月に89歳で亡くなるまで現役だった、凄まじいエネルギーを持つピアニストでした。…89歳ですよ?どんだけ力強いんだ。


この録音は、彼が晩年に近い時に録った演奏。なので、指回りという面で言えば流石に昔と比べたら衰えている…のだけど、この演奏は、そういう技術的な衰えを感じさせない美しさがある。

例えば、有名なトルコ行進曲付きの第11番。第1楽章の愛らしい変奏曲は、ただただ優しく素朴に、緩やかに進行していく。もちろん変奏によってタッチは変わるし、デュナーミクも変化を付けている。でも、「やってやるぞ」という風情は全くなくて、ひたすらに自然。それは第2楽章のメヌエットでもそうだけど、短調の箇所では絶妙に陰影を付けていて、一瞬どきっとする。でも、基本は楽しそうにくるくる踊っている少女みたいで素敵。トルコ行進曲も、今流行りの古楽的な刺激的な演奏ではなく、さらりとしたものだけど、充実した音で流れていく。とにかく自然。続くソナタ第2番の出だしだって、こんなに優しくそろっと入る演奏は今までに聴いた事がないし(大体がフォルテでじゃんじゃんやっている)、あのオペラアリアみたいなソナタ第13番も、どこまでも優しく音が紡がれる。聴いていて、「モーツァルトって素敵だなぁ」としみじみと思える演奏です。


2枚目を全く紹介出来ていないけど、こちらも素晴らしい。何が素晴らしいって、クレメンティソナタが入ってるんです、op.34-2 ト短調のやつが!(興奮気味) かの有名な大ピアニスト ウラディミール・ホロヴィッツが愛奏していた、運命の動機がこだまする劇的な楽曲。力感のあるタッチで弾いていて、大変ドラマティックな演奏になっている。他にもモーツァルトハ短調幻想曲とソナタ第14番、ソナタ12番も入っていて、「わしはまだまだ衰えてないぞ」と言わんばかりのチッコリーニが聴ける。


でもどちらのディスクにも言えるのは、題名の通り、どこか穏やかで優しい雰囲気を湛えているということ。昨今のモーツァルト演奏は、どこかエッジの効いた、爽快で刺激的なものが多くなっている。僕はそういう演奏も大好きなので良いのだが、このチッコリーニの演奏は、昨今では中々ない演奏で貴重なのではないだろうか。指回りは衰えたとは言ったけど、タッチや音色を操る技術は昔よりも高くなっているのではないかと思う。

しみじみとした、美しい演奏です。お勧め。